「相続させる」は遺産分割方法の指定にあたる
遺言で遺産を移転する場合、「遺贈する」と表現するのが一般的です。この場合、遺贈の相手は、法定相続人であっても法定相続人以外の者であっても構いません。
一方、相続というのは、法定相続人が故人の有していた権利義務を承継することを指しますので、「相続させる」という表現は、法定相続人に対してのみ用いることができるとされており、判例によると、「相続させる」という遺言は、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」と解釈されています。なお、法定相続人以外の者に「相続させる」という表現を使っても、それは「遺贈する」の意味となります。
法定相続人に対して、「遺贈する」と書いた場合と「相続させる」と書いた場合の違いは、不動産登記の手続面で現れます。「遺贈する」の場合は、受贈者は他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請をしなければならないのに対し、「相続させる」の場合は、受贈者が単独で所有権移転の登記をすることができます。
このように、「遺贈する」の場合は、他の法定相続人全員の協力が必要となり、協力が得られないときは登記手続が進まない心配があります。ただし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者と受贈者が共同で登記申請できますので、他の相続人の協力は必要はありません。
一方、「相続させる」の場合は、単独で登記申請ができますので、スムーズに手続を行うことができるというメリットがあります。また、「相続させる」遺言では、直ちに相続人に所有権が承継されるので、登記がなくても第三者に権利を主張することができます。
以上から、法定相続人に遺産を残す場合は、「相続させる」という表現を使うほうがいいでしょう。
下の表は、遺言書の表現の意味を示したものです。
遺言書の表現 | 法定相続人に対し | 法定相続人以外に対し |
特定財産を「相続させる」 | 遺産分割の方法の指定 | 特定遺贈 |
財産の割合を「相続させる」 | 相続分の指定 | 包括遺贈 |
特定財産を「遺贈する」 | 特定遺贈 | 特定遺贈 |
財産の割合を「遺贈する」 | 包括遺贈 | 包括遺贈 |