本人が全文を自書して押印する
自筆証書遺言の作成について、民法で定められているのは次の点だけで、この要件以外の制約はありません。
① 遺言者本人が
② 全文、日付および氏名を
③ 自書し
④ 印を押す
したがって、用紙、筆記用具は、何を使っても構いません。書き方も、縦書きでも横書きでもオーケーです。書く項目も、遺言の本文と日付、氏名があればいいので、住所や生年月日が書いてなくても、遺言の効果に影響はありません。なお、日付は年月日を特定する必要があるので、△年△月吉日といった書き方は認められません。
また、押印は認印(みとめいん)でもいいのですが、押印でのトラブルを避けるため、実印を使用するのがいいでしょう。
「相続させる」は遺産分割方法の指定にあたる
遺言で遺産を移転する場合、「遺贈する」と表現するのが一般的です。この場合、遺贈の相手は、法定相続人であっても法定相続人以外の者であっても構いません。
一方、相続というのは、法定相続人が故人の有していた権利義務を承継することを指しますので、「相続させる」という表現は、法定相続人に対してのみ用いることができるとされており、判例によると、「相続させる」という遺言は、「遺贈」ではなく、「遺産分割方法の指定」と解釈されています。なお、法定相続人以外の者に「相続させる」という表現を使っても、それは「遺贈する」の意味となります。
法定相続人に対して、「遺贈する」と書いた場合と「相続させる」と書いた場合の違いは、不動産登記の手続面で現れます。「遺贈する」の場合は、受贈者は他の法定相続人全員と共同で所有権移転の登記申請をしなければならないのに対し、「相続させる」の場合は、受贈者が単独で所有権移転の登記をすることができます。
このように、「遺贈する」の場合は、他の法定相続人全員の協力が必要となり、協力が得られないときは登記手続が進まない心配があります。ただし、遺言執行者が指定されている場合は、遺言執行者と受贈者が共同で登記申請できますので、他の相続人の協力は必要はありません。
一方、「相続させる」の場合は、単独で登記申請ができますので、スムーズに手続を行うことができるというメリットがあります。また、「相続させる」遺言では、直ちに相続人に所有権が承継されるので、登記がなくても第三者に権利を主張することができます。
以上から、法定相続人に遺産を残す場合は、「相続させる」という表現を使うほうがいいでしょう。
下の表は、遺言書の表現の意味を示したものです。
遺言書の表現 |
法定相続人に対し |
法定相続人以外に対し |
特定財産を「相続させる」 |
遺産分割の方法の指定 |
特定遺贈 |
財産の割合を「相続させる」 |
相続分の指定 |
包括遺贈 |
特定財産を「遺贈する」 |
特定遺贈 |
特定遺贈 |
財産の割合を「遺贈する」 |
包括遺贈 |
包括遺贈 |
団体、法人への寄付も可能
遺贈は、法定相続人以外の者だけでなく、団体や法人に対しても行うことができます。ただ、団体によっては受け取れる財産を限定(預貯金に限るなど)している場合がありますので、事前に確認しておいたほうがいいでしょう。
なお、遺産を寄付する場合であっても遺言者の法定相続人(配偶者、直系尊属、子。兄弟姉妹は除く)には遺留分があり、遺留分減殺請求を受ける可能性があることに留意が必要です。
包括遺贈となり、マイナス財産も承継
遺産の全部または割合的な一部(たとえば、全財産の3分の1)を遺贈することを包括遺贈といい、有効な遺言となります。ただ、遺言者の法定相続人(配偶者、直系尊属、子。兄弟姉妹は除く)には遺留分があり、遺留分減殺請求を受ける可能性があることに留意が必要です。
なお、全財産の遺贈を受けた包括受遺者は、マイナスの財産(負債)も承継することになります。
遺贈で財産を残せるが、遺留分に留意が必要
内縁の妻や息子の嫁は、法定相続人ではありません。法定相続人以外の者に財産を残すには、遺贈という方法があります。「▲▲(法定相続人以外の者)に、△△(財産)を遺贈する」という遺言をすることによって、遺贈の相手である法定相続人以外の者が指定された財産を取得することができます。
ただし、遺言者の法定相続人(配偶者、直系尊属、子。兄弟姉妹は除く)には遺留分がありますので、遺留分を侵害する遺贈を行った場合は、遺留分権者から遺留分減殺請求を受ける可能性があります。
なお、法定相続人以外の者に不動産を遺贈する場合、遺言執行者がいないと、登記手続をする際に遺言者の法定相続人の協力が必要となりますので、遺言書で遺言執行者を指定しておいたほうが手続がスムーズに運べます。
家庭裁判所の許可を得ることが必要
相続が開始する前に、遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分権利者に遺留分を請求しないようにお願いして、念書のたぐいを書いてもらったとしても、あくまでもお願いの域は出ず、相続が始まって、遺留分を請求してきたら拒むことはできません。
したがって、遺留分を請求してこないことを確実にするためには、相続開始前に、家庭裁判所に遺留分の放棄を認めてもらっておかなければなりません。ただ、財産をもらう予定の相続人が遺留分権利者に対し、遺留分の放棄を説得しようとしても、なかなか受け入れてもらえないでしょうから、もし、遺留分を放棄してもらおうとするのなら、被相続人が説得するのが効果的でしょう。
なお、遺留分の放棄を家庭裁判所に申し立てた場合、次のような基準に基づいて認めるかどうかの判断をするようです。
① 遺留分の放棄が本人の意思によるものでこと
② 遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること
③ 遺留分の放棄に対して見返り的なものがあること
遺留分相当を遺留分権利者に残す内容の遺言を書く
遺留分を侵害するような内容の遺言書を作成した場合、遺留分権利者から、遺留分減殺請求がなされる可能性があります。遺言書のなかに、「なぜ、このような遺言にしたのか」を書き込むことによって、遺留分権利者が遺留分減殺請求を諦めることもありますが、被相続人の意に反して、遺留分を請求してきたときは、遺留分の取得を阻止することはできず、トラブルに発展するおそれもあります。また、相続の開始前に遺留分を放棄してもらうよう説得するという方法もありますが、遺留分権利者に拒絶されれば、やはり遺留分請求を阻止することができません。
一方、遺留分を請求してくることを前提とした場合の対策としては、次のような方法が考えられます。
① あらかじめ遺留分権利者に遺留分相当額の財産を残す内容の遺言書にしておけば、遺留分権利者にも、法律で定められた遺留分を取得できますので、遺留分で揉めることを防ぐことができます。
② 遺言者は遺留分減殺請求の順序について意思表示することができます。そこで、「遺留分の請求があった場合は、△△に相続させた預金から減殺する」という内容の遺言書にしておくことによって、もし、遺留分の請求があった場合に、どの財産から遺留分を支払うかをコントロールすることができます。
指定相続分は法定相続分に優先
遺言で、法定相続分と異なる相続分の指定を行うと、法定相続分に優先されます。これを指定相続分といいます。そして、指定された相続分に従って、遺産分割協議を行うことになります。
なお、「相続分の指定」は、2分の1とか3分の1といったように割合を指定する方法ですが、「遺産分割方法の指定」によって、結果的に法定相続分と異なる割合で財産を相続させることもできます。たとえば、「Aに甲不動産を相続させる。Bに乙不動産を相続させる」というように、特定の財産について、「相続させる」旨の遺言をすることによって、法定相続分と異なる財産分けが行われるようにすることができます。
そして、「相続させる」旨の遺言があると、その財産についての遺産分割協議を行うことなく、指定された相続人がその財産を取得することになります。したがって、対象となる財産が不動産であった場合、指定された相続人が単独で相続登記をすることができます。
相当悪質な虐待や侮辱などが対象に
民法では、次に掲げる事由があるときに、廃除を家庭裁判所に請求することができると規定しています。
① 推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたとき
② 推定相続人が、被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
③ 推定相続人にその他の著しい非行があったとき
どの程度の虐待や侮辱があれば、廃除の事由に該当するかは、家庭裁判所が判断することになりますが、廃除が認められると、一切の相続権を失うわけですから、社会通念上、相当悪質と認められる程度の事由がなければ、廃除は認められないと思われます。ちなみに、裁判例には、「家族的共同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難にする行為」も廃除事由になるとしたものがあります。
全財産を遺贈しても遺留分の拒否はできない
自分の子供に財産を相続させないないようにする方法としては、廃除と財産を子供以外の者に遺贈する方法などがあります。
ただし、廃除は遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待、侮辱、非行等があった場合に、被相続人の請求に基づいて、家庭裁判所の審判を経て、その者の相続権を剥奪する制度ですので、子供から虐待等を受けた事実があり、それを家庭裁判所に認めてもらうことが必要となります。逆にいえば、虐待などがなければ廃除することはできません。
なお、廃除は被相続人が生前に行うこともできますし、遺言によって行うこともできます。生前廃除は、被相続人自らが廃除したい者を相手方として、家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。そして、家庭裁判所が廃除を認める審判を下したら、その旨を市区町村に届けることによって、戸籍に廃除された旨が記載されます。遺言による廃除は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。
廃除が認められると、遺留分を含むすべての相続権が剥奪されますので、廃除された者は一切、財産を相続することができなくなります。
一方、すべての財産を子供以外の者に遺贈するとした場合は、子供には遺留分がありますから、子供が遺留分の請求をしてきたときは、遺留分の取得まで阻止することはできません。もちろん、子供が遺言の内容に納得し、遺留分の請求をしてこなければ、子供が財産を手にすることはありません。