自筆、秘密、公正証書の3種類がある
遺言書には、①自筆証書遺言、②秘密証書遺言、③公正証書遺言の3種類があります。それぞれの遺言の特徴は次のとおりです。
① 自筆証書遺言
・ 自筆で書く必要があるが、費用がかからない
・ 内容を秘密にしておくことができる
・ 決められた様式に沿って作られていないと無効になる可能性がある
・ 遺言書を見つけてもらえないおそれがある
・ 家庭裁判所の検認が必要であり、相続人に手間がかかる
② 秘密証書遺言
・ 内容は秘密にしておき、遺言の存在は明らかにしたい場合に便利
・ ワープロによる作成も可
・ 決められた様式に沿って作られていないと無効になる可能性がある
・ 公証人や証人などの費用がかかる
・ 家庭裁判所の検認が必要であり、相続人に手間がかかる
③ 公正証書遺言
・ 専門家が関与するので、内容面でトラブルになることが少ない
・ 原本が公証役場で保管されるので、紛失・改ざんの心配がない
・ 口がきけない場合でも通訳人の介在で作成可能
・ 検認の必要がない
・ 公証人や証人など費用のがかかる
・ 内容が公証人と証人に知られてしまう
複数人の遺言を1つにまとめることはできない
民法では、「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることはできない」と規定されており、共同遺言は禁止されています。遺言の内容について、夫婦で話し合うことは構いませんが、遺言書の作成は、夫婦それぞれが行う必要があります。
遺言能力があれば作成可能だが、トラブル防止策も必要
被保佐人、被補助人であっても、遺言能力(遺言の内容や遺言の効果を理解できる意思能力)があれば、保佐人や補助人の同意なしに、遺言書を作成することができます。
ただ、将来のトラブル防止のためには、被保佐人、被補助人に遺言能力があったことを証明できる医師の診断書をもらっておいたほうがいいでしょう。
成年後見人による代理作成はできない
成年後見人には、財産管理に関する代理権が与えられていますが、遺言書の作成という一身専属事項については、代理権がありませんので、成年後見人が成年被後見人に代わって遺言書を作成することはできません。
意思能力を欠く者の遺言は無効
認知症などで、成年被後見人とされた人は意思能力を欠いているので、その状態で遺言書を作成しても無効となります。
ただ民法には、「成年被後見人が事理弁識能力を一時回復した時において遺言をするには、医師2人以上の立会いがなければならない」という規定がありますので、認知症の人が、一時的に意思能力を回復し、さらに、2人以上の医師が立ち会っていれば、遺言をすることができます。この場合、医師は、遺言者が遺言をする時に事理弁識能力を欠く状態になかった旨を遺言書に記載する必要があります。
医師の診断を受け、遺言能力を確認
民法では、「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有していなければならない」と規定されています。遺言をした時に、意思能力があればその遺言は有効ですが、「遺言をした時は認知症で意思能力がなかったので遺言は無効」とする裁判例もあります。
つまり、認知症の疑いがある人が遺言書を作成した場合、あとになって無効と判断されることもあるので、まずは、医師の診断を受けることをお勧めします。
15歳以上なら遺言書が作れる
民法では、「15歳に達した者は、遺言をすることができる」と規定されていますので、15歳以上であれば、未成年であっても遺言書を作成することができます。
なお、15歳に達していない者がした遺言は、無効となります。
トラブルの心配があれば作成しましょう
遺言書を残さなかった場合、通常、あなたの財産(多くても、少なくても)を、誰がどれだけの割合で相続するのかについて、法定相続人による遺産分割協議が行われます。
そして、この遺産分割協議が円満に行われ、相続人同士がもめることはないという確信があなたにあり、そしてどのようにあなたの遺産が分割されても構わないとお考えなら、遺言書を作らなくてもいいと思います。
しかし、遺産の分割割合にあなたの意思を反映させたいとか、法定相続人以外の世話になった人(たとえば、息子の嫁など)に財産の一部を残したいといった場合や、遺言書がないと相続人の間でトラブルが起こる心配があるのであれば、遺言書を作成しておいたほうがいいでしょう。
とくに、子供がいないご夫婦の場合、法定相続人として、配偶者に加え故人の兄弟姉妹が加わりますので、配偶者が思いもよらないトラブルに巻き込まれないともかぎりません。子供がいないご夫婦は、遺言書を作成しておくことをお勧めします。
遺言執行者を指定しておけば手続がスムーズに
必ず、遺言執行者を決めなければならないというというわけではありません。
しかし、遺言執行者がいない場合、相続人全員が協力しないと手続が進められない事項も多いので、遺言執行者を指定しておいたほうがいいでしょう。たとえば、銀行によっては、遺言に「特定の相続人に特定の預金を相続させる」と書かれてあっても、相続人全員の同意を求めることもあります。
なお、遺言執行者の指定がない場合、利害関係者の請求によっ家庭裁判所は遺言執行者を選任することができます。ただ、遺言執行者の指定がないからといって、必ず家庭裁判所に遺言執行者の選任を請求しなければならないというわけではなく、相続人だけで遺言の執行ができる場合もあります。たとえば、「不動産を相続させる」という遺言の場合、遺言執行者の指定がなくても、不動産を承継する相続人は単独で相続登記をすることができます。
エンディングノートは法律行為ではない
遺書は遺族や知人に気持ちを伝える手紙です。遺書は法律行為ではなく、何をどう書いても有効か無効かという問題を生じません。また、最近はエンディングノートを書く方もふえているようですが、エンディングノートは、自身の終末期医療のこと、葬儀のこと、家族へのメッセージをまとめたメモであり、遺書と同様、法律行為ではありません。
これに対し遺言書は、自分の財産の処分の方法などを記した法律行為の一種です。したがって、民法に定められた方式によらない遺言書は無効となります。
遺書やエンディングノートに財産分与について書いてもいいですか?
遺書やエンディングノートに財産分与について書くことはできます。そして、遺族全員が故人の意思を尊重し、遺書やエンディングノートに書かれたとおりに財産分与をしてもなんの問題もありません。しかし、遺書やエンディングノートは法律行為ではないので、遺書やエンディングノートに書かれたとおりに財産分けをさせる拘束力はなく、遺族の中から遺書やエンディングノートに書かれた財産分与の方法に従わない者が出てきたときは、トラブルになります。
一方、遺言書は法律行為ですから、原則として、遺族は遺言書の内容どおりに財産分けをすることになります。