家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てる
相続人が話合いを続けても、どうしても遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停役をやってもらいます。裁判所のホームページによると、遺産分割調停について次のように説明されています。
『被相続人が亡くなり、その遺産の分割について相続人の間で話合いがつかない場合には家庭裁判所の遺産分割の調停又は審判の手続を利用することができます。調停手続を利用する場合は、遺産分割調停事件として申し立てます。この調停は、相続人のうちの1人もしくは何人かが他の相続人全員を相手方として申し立てるものです。
調停手続では、当事者双方から事情を聴いたり、必要に応じて資料等を提出してもらったり、遺産について鑑定を行うなどして事情をよく把握したうえで、各当事者がそれぞれどのような分割方法を希望しているか意向を聴取し、解決案を提示したり、解決のために必要な助言をし、合意を目指し話合いが進められます。
なお、話合いがまとまらず調停が不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され、裁判官が、遺産に属する物又は権利の種類及び性質その他一切の事情を考慮して、審判をすることになります。』
漏れていた財産は、あらためて分割協議を行う
漏れが発覚した相続財産は未分割の財産として、あらためて遺産分割協議を行う必要があります。ただし、新たに見つかった財産が預貯金のようにスムーズに分割ができる場合は、見つかった財産のみを対象とした遺産分割協議で済むと考えられますが、見つかった財産が不動産だったような場合は、いったん遺産分割協議を白紙に戻して、一からやり直したほうがいいケースもあるかもしれません。こうした場合は、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議のやり直しをすることができます。
財産分割のやり直しが本筋だが、相続人の意向次第
遺産分割を行うにあたって、もっとも優先すべきは遺言ですから、遺言の存在が明らかになった場合は、遺言に従って、財産の分割をやり直すのが本筋です。
しかしながら、遺産分割協議終了後に見つかった遺言書の内容を確認したうえで、相続人全員が、先に成立した遺産分割協議の内容を優先させたいとの考えで一致しているのであれば、遺産分割をやり直す必要はありません。
ただ、遺言書の内容を知った相続人のなかに、遺言の内容を知っていれば遺産分割の合意をしなかったと主張する者がいる場合には、遺産分割協議が無効となる可能性もあります。
したがって、遺産分割協議後に遺言書が見つかったときは、家庭裁判所で検認の手続を行ったうえで、相続人全員で遺言の内容を確認し、遺言の内容に従うかどうかの話合いをする必要があります。
原則は現物分割だが、代償分割・換価分割もある
遺産を分割する方法としては、「現物分割」が原則ですが、一部の相続人が遺産を取得し、その相続人が他の相続人に代償金を支払うという「代償分割」もあります。また、遺産を第三者に売却し、売却代金を相続人で分配する「換価分割」という方法もあります。
そのほか、遺産を相続人で共有する「共有分割」という方法もありますが、共有分割には、共有者全員が同意しない限り、不動産の処分ができないなど、厄介な問題を抱えることがありますので、可能なら避けたほうがいいでしょう。
数次相続は遺産分割協議の当事者が多くなる
最初の相続(第1次相続)の被相続人をA、そして2つ目の相続(第2次相続)の被相続人をB(BはAの相続人)とします。このように、第1次相続の相続手続をする前に、第2次相続が開始してしまった状態を数次相続といいます。
上記の場合、BはAの相続権を有しているうちに亡くなったわけですから、Bの相続人は第1次相続についての相続権を有しています。したがって、第1次相続の遺産分割協議の当事者は、Aの相続人(Bを除く)とBの相続人になります。また当然、第2次相続の遺産分割協議の当事者はBの相続人になります。
相続の開始があってから、何年も遺産分割をしないでいると、第2次相続が発生して数次相続になる可能性が高まります。数次相続になると、遺産分割協議の当事者が増え、手続がたいへんになる場合がありますので、相続が開始したら、早めに遺産分割協議を行っておいたほうがいいでしょう。
代襲相続人は被代襲者の寄与分を主張できる
特別の寄与を行った相続人が被相続人より先に死亡した場合、代襲相続人は、相続人(被代襲者)の地位を承継し、相続人(被代襲者)の相続分(寄与分を含む)をそのまま承継すべきであると考えられることから、代襲相続人はその寄与分を主張することできるとされています。
寄与分の額は相続人で協議する
民法では、寄与分の算定方法について、共同相続人の協議で定めるとしているだけで、具体的な算定方法は決まっていません。そして、共同相続人による協議がととのわないときは、家庭裁判所は、「寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める」とされています。
したがって、寄与分の額は相続人間の話合いで決めることになりますが、話合いががまとまらない場合には、家庭裁判所での調停・審判に委ねることとなります。
寄与分については、特別の寄与を行った者は貢献度を大きく見積もり、そうでない者はできるだけ少なく見積もる傾向があるため、なかなか話合いではまとまらず、家庭裁判所に持ち込まれることも多いようです。
寄与分は原則として、優先的に取得できる
被相続人の事業に関して労務の提供や財産上の給付をしたり、被相続人の療養看護などで、被相続人の財産の維持・増加について特別の寄与を行った相続人がいる場合、原則として、その相続人は相続財産から寄与分を優先的に取得することができ、寄与分を差し引いた残りの遺産を各相続人で分配します。寄与分を受けることができるのは相続人に限られるので、内縁の妻や息子の嫁がいくら特別の寄与をしても、寄与分を主張することはできません。
ただし、遺言書があり、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言があった場合、その財産は、相続の開始と同時に、特定の相続人に承継されますので、寄与分を考慮する財産から除外されます。したがって、全財産について「相続させる」旨の遺言がある場合、寄与分を取得する余地がないことになります。
被相続人の意思表明があれば、持戻しが免除される
特別受益の持戻しは、特別受益を相続分の一部の前渡しと考え、相続人間の公平を図るために、特別受益分を相続財産に加算するものですから、被相続人が持戻しを希望しない意思を表明している場合には、持戻しを行わないことになります。これを特別受益の持戻しの免除といいます。
特別受益の持戻しの免除の意思表示は、生前贈与については特別の方式はなく、明示・黙示も問いませんが、遺贈については遺言によって行う必要があります。
なお、被相続人が生前贈与を行い、生前贈与について持戻しの免除の意思表示を行ったとしても、その特別受益が遺留分を侵害している場合は、遺留分減殺請求の対象となります。
保険金額が極端に大きい場合以外は特別受益にならない
生命保険の死亡保険金は、原則として、特別受益にはなりません。
しかし、生命保険金の金額が極端に大きく、相続人の間の不公平が是認することができないほど著しいという特段の事情がある場合は、例外的に特別受益になることがあるという裁判例があります。