特別受益を持ち戻して相続分を計算
被相続人から生前に相当の財産を譲り受けた相続人がいる場合、相続人間の公平を図るため、まず、譲り受けた財産を特別受益として相続財産に加算します(これを持戻しといいます)。そして、持ち戻した相続財産を各相続人の相続分で分割したものが、各相続人の取得分となり、特別受益者についてはこの取得分から特別受益分を差し引きます。
なお、特別受益に該当するのは、婚姻や養子縁組のための贈与、あるいは生計の資本としての贈与です。
債務を承継しない場合は相続放棄で
家庭裁判所に相続放棄の申述をするのではなく、遺産分割協議書に「相続を放棄する」と記載したり、「相続分なきことの証明書」を提出して行う“事実上の相続放棄”は、特定の相続人にプラスの財産を承継させる方法としては、効果的な手段ですが、債務について特定の相続人に承継させる効力はありません。したがって、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も放棄する場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続を行う必要があります。
「相続分なきことの証明書」とは?
「自分には相続分がないことを認めます」という宣言をした文書を「相続分なきことの証明書」といいます。たとえば、3人の相続人がいて、Aという相続人にのみ不動産を相続させる場合、共同相続人であるBとCが「相続分なきことの証明書」を提出すれば、遺産分割協議書がなくても相続登記ができます。相続人がそれぞれ遠方にいる場合など、遺産分割協議書の代わりとして利用されています。
全員の同意があれば、遺言と異なる分割も可能
遺言書で遺産分割についての指定があっても、相続人全員が同意すれば(遺言執行者がいれば、遺言執行者の同意も必要)、遺言書と異なる遺産分割を行うことができます。
ちなみに、遺言執行者が選任されている場合、遺言執行者は、遺言内容を実現する義務がありますが、遺言と異なる遺産分割について、相続人全員が合意しているときは、遺言執行者がこれを了承することは許されるとされています。
法定相続分に拘束されるわけではない
遺産分割協議を行う場合、法定相続分どおりに財産を分割しなければならないわけではなく、話合いによって、法定相続分と異なる割合で財産を分割しても構いません。実際問題として、相続財産が金銭だけであれば、法定相続分どおりに分割することも可能ですが、相続財産に不動産があると、法定相続分と同じ割合で財産を分割するのは難しいことが多いと考えられます。したがって、法定相続分をふまえたうえで、各相続人が納得するようなかたちで相続分決めるのがいいでしょう。
なお、マイナス財産である債務は、債権者が不利を被らないようにするため、、各相続人はその法定相続分に応じて債務を引き継ぐことになっています。ただ、債権者の承諾があれば、法定相続分と異なる割合で債務を分割することができます(たとえば、特定の相続人が債務の全額を負担するなど)。
全員の合意があればやり直しできる
遺産分割協議が成立し、相続手続を終えた後であっても、相続人全員が合意すれば、遺産分割協議をやり直すことはできます。全員の合意が前提となりますので、一人でも反対者がいればやり直しはできません。
なお、遺産分割のやり直しは、税務上、新たな財産の譲渡や贈与とみなされて、贈与税などが課されることもありますので、注意が必要です。
前婚の子(法定相続人)の不参加は協議無効
前婚の子も法定相続人ですから、遺産分割協議に参加する権利があります。もし、前婚の子を参加させないで遺産分割協議を行った場合、その協議は無効となります。
不在者財産管理人を選任して対応
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要ですので、相続人のなかに行方不明者がいる場合は、その行方不明者を除いて遺産分割協議を行うことはできません。
遺産分割協議の当事者のなかに行方不明者がいる場合は、一般的に、不在者財産管理人を選び、不在者財産管理人に参加してもらって遺産分割協議を行います。
不在者財産管理人の選任は、利害関係人(不在者の配偶者、相続人にあたる者、債権者など)が、行方不明者の住所地の家庭裁判所に申立てをして行います。なお、不在者財産管理人が遺産分割協議に参加するには、家庭裁判所から権限外行為許可を得る必要があります。
判断能力がない場合は成年後見人を選任
ひとくちに認知症といっても、いろいろなレベルがありますが、自分自身で財産管理を行うことができないというように、判断能力がまったくない認知症患者が遺産分割協議に参加することはできません。もし、そうした認知症の人が参加した遺産分割協議は、無効になる可能性が高いといえます。
このように遺産分割協議の当事者の中に判断能力を欠いた認知症の人がいる場合には、家庭裁判所に成年後見人の選任の申立てを行い、選任された成年後見人が参加して遺産分割協議を行うことになります。
なお、認知症の程度が「自己の財産を管理・処分することができない」ときは、成年後見人を選任することになりますが、 「自己の財産を管理・処分するには、常に援助が必要である」ときは、保佐人を選任することになります。また、「自己の財産を管理・処分するには、援助が必要な場合がある」ときは、補助人を選任することになります。
特別代理人の選任が必要な場合もある
未成年者は法律行為をすることができないので、遺産分割協議に参加することはできません。そこで、通常は親権者が未成年者の代わりに遺産分割協議に参加することになりますが、相続の場合、未成年者とその親権者の両方が相続人であるケースも多くあります。この場合は、親権者が未成年者の代理人になることは利益相反となりますので、親権者は未成年者の特別代理人の選任を家庭裁判所に請求する必要があります。
なお、特別代理人の申立ては、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います。
全員が合意し、遺産分割協議書の作成を
遺産分割協議は、相続人全員の合意が必要ですが、全員が同じ時、同じ場所に集まって協議するのが難しいときは、電話や手紙などで連絡をとりあっても構いません。つまり、どのような方法で遺産分割協議を行っても、相続人全員の合意が得られればいいわけです。
そして、協議によって、遺産分割について全員の合意が得られたら、遺産分割協議書を作成して、合意の証拠として残します。この遺産分割協議書は、不動産の名義変更や銀行預金の解約等の際に必要となる重要な書類です。