死亡者に関する遺言の部分は無効
遺言書で財産を引き継ぐ者として指定された者が、遺言者よりも先に死亡した場合、その死亡者に関する遺言の部分については無効扱いとなります。つまり、遺言書の中の死亡者に関する遺言の部分は、財産引継ぎの指定がなかったものとなりますので、対象となる財産については、法定相続人による遺産分割協議を行って、どうやってその財産を引き継ぐかを決めることになります。
したがって、遺言者が遺言書で財産を引き継ぐ者として指定した者の死亡を知り、別の者を財産引継ぎ者として指定する場合は、①遺言書を書き直す方法、②財産引継ぎ者が遺言者よりも先に死亡する場合も想定した予備的遺言を記載しておく方法があります。
もし、財産を引き継ぐ者として指定した者が高齢の場合は、あらかじめ次順位の財産引継ぎ者を指定しておいたほうがいいかもしれません。予備的遺言は、たとえば「もしAが遺言者の死亡以前に死亡したときは、Aに相続させる財産をBに相続させる」というふうに書きます。
代襲相続は発生しない
民法では、「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない」と定めていますので、遺言書で財産を法定相続人以外の者に「遺贈する」と指定し、遺言者より前に受遺者が死亡したときは、その遺言事項は無効となります。
また、遺言書で財産を法定相続人に「相続させる」と指定した場合も、遺贈と同様に、原則として、その遺言事項は効力を生じないとされていますので、代襲相続は発生しません。つまり、遺言では代襲相続の効力が発生しないわけです。
したがって、もし財産引継ぎ者が遺言者よりも先に死亡した場合、その子の財産を引き継がせたいのであれば、予備的遺言として、次順位の財産引継ぎ者にその子を指定しておいたほうがいいでしょう。
公正証書遺言を利用してもトラブルのリスクは残る
離婚した妻や夫との間に生まれた子には知らせずに相続を終えたい、つまり、前婚の子には財産を渡したくないという要望だと思います。
しかし、前婚の子には遺留分がありますので、遺留分を主張された場合は、財産を渡さないで済ますというわけにはいきません。ただ、被相続人が、たとえば現在の妻や夫に財産を相続させるといった内容の公正証書遺言を作成しておくことによって、前婚の子に相続開始を知らせることなく相続を済ますことができる場合もあります(金融機関によっては、公正証書遺言があっても、預金解約をする場合、法定相続人全員の同意を求めてくることがあります)。とはいっても、なんらかの事情で前婚の子が相続開始を知れば、遺留分を請求してこないとも限りません。
ちなみに、自筆証書遺言の場合は検認という手続があり、裁判所から相続人全員に連絡が行くので、前婚の子も相続の開始を知ることになります。また、遺言書を残さなければ、相続人全員で遺産分割協議を行う必要がありますので、やはり前婚の子も相続の開始を知ることになります。
したがって、公正証書遺言で前婚の子を除いた財産分与を指定しておけば、とりあえず前婚の子への連絡はしなくて済むケースもありますが、もし、前婚の子が相続開始を知ったときは、遺留分を主張してくる可能性があり、トラブルのリスクを抱えていることは留意しておいたほうがいいでしょう。
家庭裁判所の許可を得ることが必要
相続が開始する前に、遺留分を放棄するには、家庭裁判所の許可が必要です。
遺留分権利者に遺留分を請求しないようにお願いして、念書のたぐいを書いてもらったとしても、あくまでもお願いの域は出ず、相続が始まって、遺留分を請求してきたら拒むことはできません。
したがって、遺留分を請求してこないことを確実にするためには、相続開始前に、家庭裁判所に遺留分の放棄を認めてもらっておかなければなりません。ただ、財産をもらう予定の相続人が遺留分権利者に対し、遺留分の放棄を説得しようとしても、なかなか受け入れてもらえないでしょうから、もし、遺留分を放棄してもらおうとするのなら、被相続人が説得するのが効果的でしょう。
なお、遺留分の放棄を家庭裁判所に申し立てた場合、次のような基準に基づいて認めるかどうかの判断をするようです。
① 遺留分の放棄が本人の意思によるものでこと
② 遺留分放棄に合理的な理由と必要性があること
③ 遺留分の放棄に対して見返り的なものがあること
遺留分相当を遺留分権利者に残す内容の遺言を書く
遺留分を侵害するような内容の遺言書を作成した場合、遺留分権利者から、遺留分減殺請求がなされる可能性があります。遺言書のなかに、「なぜ、このような遺言にしたのか」を書き込むことによって、遺留分権利者が遺留分減殺請求を諦めることもありますが、被相続人の意に反して、遺留分を請求してきたときは、遺留分の取得を阻止することはできず、トラブルに発展するおそれもあります。また、相続の開始前に遺留分を放棄してもらうよう説得するという方法もありますが、遺留分権利者に拒絶されれば、やはり遺留分請求を阻止することができません。
一方、遺留分を請求してくることを前提とした場合の対策としては、次のような方法が考えられます。
① あらかじめ遺留分権利者に遺留分相当額の財産を残す内容の遺言書にしておけば、遺留分権利者にも、法律で定められた遺留分を取得できますので、遺留分で揉めることを防ぐことができます。
② 遺言者は遺留分減殺請求の順序について意思表示することができます。そこで、「遺留分の請求があった場合は、△△に相続させた預金から減殺する」という内容の遺言書にしておくことによって、もし、遺留分の請求があった場合に、どの財産から遺留分を支払うかをコントロールすることができます。
指定相続分は法定相続分に優先
遺言で、法定相続分と異なる相続分の指定を行うと、法定相続分に優先されます。これを指定相続分といいます。そして、指定された相続分に従って、遺産分割協議を行うことになります。
なお、「相続分の指定」は、2分の1とか3分の1といったように割合を指定する方法ですが、「遺産分割方法の指定」によって、結果的に法定相続分と異なる割合で財産を相続させることもできます。たとえば、「Aに甲不動産を相続させる。Bに乙不動産を相続させる」というように、特定の財産について、「相続させる」旨の遺言をすることによって、法定相続分と異なる財産分けが行われるようにすることができます。
そして、「相続させる」旨の遺言があると、その財産についての遺産分割協議を行うことなく、指定された相続人がその財産を取得することになります。したがって、対象となる財産が不動産であった場合、指定された相続人が単独で相続登記をすることができます。
相当悪質な虐待や侮辱などが対象に
民法では、次に掲げる事由があるときに、廃除を家庭裁判所に請求することができると規定しています。
① 推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたとき
② 推定相続人が、被相続人に対して重大な侮辱を加えたとき
③ 推定相続人にその他の著しい非行があったとき
どの程度の虐待や侮辱があれば、廃除の事由に該当するかは、家庭裁判所が判断することになりますが、廃除が認められると、一切の相続権を失うわけですから、社会通念上、相当悪質と認められる程度の事由がなければ、廃除は認められないと思われます。ちなみに、裁判例には、「家族的共同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難にする行為」も廃除事由になるとしたものがあります。
全財産を遺贈しても遺留分の拒否はできない
自分の子供に財産を相続させないないようにする方法としては、廃除と財産を子供以外の者に遺贈する方法などがあります。
ただし、廃除は遺留分を有する推定相続人が被相続人に対して虐待、侮辱、非行等があった場合に、被相続人の請求に基づいて、家庭裁判所の審判を経て、その者の相続権を剥奪する制度ですので、子供から虐待等を受けた事実があり、それを家庭裁判所に認めてもらうことが必要となります。逆にいえば、虐待などがなければ廃除することはできません。
なお、廃除は被相続人が生前に行うこともできますし、遺言によって行うこともできます。生前廃除は、被相続人自らが廃除したい者を相手方として、家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。そして、家庭裁判所が廃除を認める審判を下したら、その旨を市区町村に届けることによって、戸籍に廃除された旨が記載されます。遺言による廃除は、遺言執行者が家庭裁判所に廃除の請求をすることになります。
廃除が認められると、遺留分を含むすべての相続権が剥奪されますので、廃除された者は一切、財産を相続することができなくなります。
一方、すべての財産を子供以外の者に遺贈するとした場合は、子供には遺留分がありますから、子供が遺留分の請求をしてきたときは、遺留分の取得まで阻止することはできません。もちろん、子供が遺言の内容に納得し、遺留分の請求をしてこなければ、子供が財産を手にすることはありません。
全財産を配偶者に相続させる遺言を作成する
被相続人の法定相続人が配偶者と兄弟姉妹の場合、法定相続分は配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1となります。ただし、兄弟姉妹には遺留分がありませんので、配偶者に全財産を相続させる旨の遺言書を作成しておけば、配偶者だけに財産を残すことができます。
書面以外の遺言は無効
遺言は書面で行うこととされていますので、録音・録画など記録媒体に残した音声や画像を遺言として取り扱うことはできず、無効となります。法的に有効な遺言を残すには、書面による遺言書の作成が必要です。